2010年1月22日金曜日

結核性髄膜炎で低Cl血症あり、その結果 髄液Cl濃度低下する。ローゼンタール計測盤では、/3mm3で表示される 国際的には 3で割って /μLで表示

髄液一般検査の標準化 平成20 年7 月


市立芦別病院 臨床検査室 遠藤 雅仁

【 はじめに 】

脳脊髄液(髄液)は中枢神経系の病態に直接アプローチできる数少ない検査材料であり、特に髄液一

般検査は早急な治療を必要とする髄膜炎・脳炎の診断や治療経過の観察のために欠くことのできない検

査法である。だが、日常検査の中での髄液は検査件数や症例数が血液や尿と比較して非常に少ないとい

う宿命的なハンディを持つことも事実である。

Ⅰ。髄液の採取と取り扱い

1. 腰椎穿刺髄液と脳室ドレナージ髄液

髄液は通常、腰椎穿刺により採取されるが、水頭症などが原因で脳室ドレナージを施行している患

者では脳室に挿入されたドレナージを介して採取した髄液が検体として提出される場合がある。注意

すべきは脳室ドレナージ髄液は蛋白量が腰椎穿刺髄液の1/2~1/3にとどまる点である。これは

髄液巡回速度の違いにより腰椎では髄液が濃縮されるためと考えられる。また、ドレナージ髄液には

医原的原因により脳組織片や脈絡層細胞の混入をみとめることが少なくない。これらに臨床的出現意

義はないが、病的な所見と誤認しないように注意する必要がある。ドレナージ髄液の採取は頭部皮下

の貯留槽(リザーバー)より行う。廃液バック中の髄液は細胞が変性融解し、二次的な雑菌の増生を

認め、検体として使用できない。

2. 髄液採取後は迅速に対応する

髄液は2~3本の滅菌スピッツに分けて採取し、そのうちの最初に採取した1本目を髄液一般検査

に使用し、残りを微生物検査や他の特殊検査などに用いる。髄液は成人で1 分間に約1ml の速度で

更新されており、そのため腰椎穿刺では最初に流出する髄液により多くの細胞を含む傾向がある。採

取した順番をスピッツに記入しておくとよい。一般検査の場合、髄液量は1mlあれば再検まで可能

である(細胞数算定・分類200μl、化学的検査200~300μl)。抗凝固剤は原則として使

用しない。特にヘパリンはサムソン液と反応して塵埃状物質が析出し細胞算定が困難になるので注意

する。髄液中の細胞や化学物質は極めて不安定であり、採取後は遅くても1時間以内に検査を開始す

る。

Ⅱ。細胞数の算定と分類

1. サムソン液による髄液希釈

マイクロピペットを用いて髄液180μlとサムソン液20μl(9:1)を混和する。混和する

試験管はプラスチック(ポリプロピレン)製を使用し、管壁への細胞付着をできるだけ少なくする。

サムソン液は市販のものでもよいが、2年に1度は調和し直し一定の染色性を保つようにする。

2. フックス・ローゼンタール計算盤

サムソン液で10/9倍に希釈した髄液は軽く混和後、すぐに計算盤に注入する。フックス・ロー

ゼンタール計算盤を使用するが、最近ではディスポーザブルタイプのものが使用されるようになった。

定価は1枚500円程度と割高だが、計算盤を洗浄する必要がなく、バイオハザード対策にも有効で

あることから繁忙な検査室での利用価値は高い。ただ、ディスポーザブルタイプは計算室内の髄液が

乾燥しやすいため、速やかに鏡検する必要がある。またガラス製の従来の計算盤に比較して計算室の

ライン構成はかなりラフである。
3. 細胞算定の実際


計算盤に髄液を注入後、5分間ほど放置し計算盤の底に細胞が静止するのを持って算定を開始する。

顕微鏡の倍率は200倍(接眼レンズ10倍×対物レンズ20倍)を用いることで細胞算定と分類が

同時に行え効率的である。フックス・ローゼンタール計算盤は計算室の特性から算定した細胞は/3

mm³となる。わが国では従来よりこれをそのままの単位で用いてきたが、細胞数の国際単位は血液

であれ、尿であれ、髄液であれ単位は/μlで示すのが望ましい。したがって、細胞数が150/3

mm³であれば、3で割って50/μlと報告する。

4. 細胞分類の実際

多核球と単核球に分類する。多核球として好中球、好酸球、好塩基球をまとめ、単核球としてリン

パ球、単球、組織球をまとめる。一般検査における髄液細胞分類の第一の目的は早急な治療を必要と

する細菌性髄膜炎の診断である。すなわち、細菌性髄膜炎で増加する好中球を他の細胞と区別するこ

とにほかならない。もちろん、多核球には好中球のほかに好酸球と好塩基球があるわけだが、これら

を計算盤上で明確に鑑別することは不可能である。ただ最近、保存の良い好酸球については計算盤上

でも推定可能との見解をみるが、現状では計算盤では多核球 = 好中球として取り扱う。

計算盤上の細胞は球状であり、計算盤の底に設置した細胞の位置により細胞核の見え方は様々に変

化し、多核細胞であっても核が重なり合えば単核状に見えてしまうことがある。計算盤による細胞分

類のコツは核の形状にとらわれるのではなく、細胞質の形と色に留置することである。以下、計算盤

上の髄液細胞所見(サムソン染色)について述べる。

1)多核球

① 好中球:細菌性髄膜炎で箸明増多し、フクシン色素に染色されないアメーバー状の不整な細

胞質を特徴とする。

② 好酸球:細胞質はほぼ円形で、2核のことが多い。細胞質は淡いオレンジ色を呈しコンデン

サを下げると光り輝いて見える。好酸球性髄膜炎で増加し、原因としては寄生虫感染

症や各種アレルギー反応などが考えられる。

③ 好塩基球:細胞質顆粒などは認められず、好中球と鑑別できない。

2)単核球

① リンパ球:小型で円形の核を有し、細胞質は狭小で核周囲にリング状に認められる。ウイル

ス性髄膜炎で増加する。

② 単球:好中球、リンパ球に比較してやや大型で、切れ込みを持つ核は偏在し、細胞質はフク

シンに強く染まる。これは単球の細胞質内に小胞体が多く、この小胞体内部にフクシン

色素が取り込まれるためと解釈される。各種髄膜炎やクモ膜下出血などの無菌性髄膜反

応で出現する。

③ 組織球:大型でN/C 比が小さく、細胞質には小空砲やヘモジデリンの貪食を認めることが

ある。赤血球片やヘモジデリンを認めれば髄液腔内での出血を証明できる。出血や炎

症、その他物理的刺激で反応性に動員され、出現機序は単球と同様である。

Ⅲ。髄液一般検査における化学的検査

髄液の化学的検査を選択する上で最も重要なポイントは、それらの項目が臨床的意義を有し、確た

る根拠の基に迅速性、正確性をもって、いかに簡単に測定できるかという点である。
1.臨床的意義に乏しい化学的検査


髄液の化学的検査項目は施設によって千差万別であり、100年ほど前に考案された古典的な検査

法が何の疑いもなく継続して実施されている施設も少なくない。質の向上を追及する現代医療におい

て、根拠に乏しい検査を過去の慣習のみで実施することには大きな問題がある。

① ノンネ・アペルト反応・パンディー反応

ノンネ・アペルト反応は1908年に、パンディー反応は1910年に報告され、古典的な髄液

検査のグロブリン検出試験として理解されているが、いずれも真のグロブリン反応ではなく、単に

髄液蛋白の半定量法として認識すべきである。正確な蛋白定量が可能になり、さらには免疫グロブ

リンなどの詳細な検索が日常となった現在、これらの検査法を実施する臨床的意義はほとんどなく

なった。

② トリプトファン反応

トリプトファン反応は結核性髄膜炎の髄液中にトリプトファンが存在することが報告されて

以来、結核性髄膜炎の補助的診断法として応用されてきた。しかし、本法の反応機序はいまだ明

らかではなく、ウイルス性髄膜炎、細菌性髄膜炎やキサントクロミー髄液でも陽性を示すことが

あり、これが臨床の誤解を招く結果となりかねない。また、貴重な髄液材料を1度に1mlも使

用することも問題である。結核菌の迅速検出は迅速培養法やPCR 法などに委ねられるべきであ

る。

③ クロール

髄液クロールの測定も臨床的意義に乏しい。髄液中のCl は血中Cl に由来し、血中より15~

20mEq/l高値を示す。この差はDonnan(の膜)平衡ならびに髄液と血液間に存在する

電位差により生じるとされ、髄液Cl は血中Cl 値の変動に従い増減する。髄液の蛋白が上昇する

とDonnan 平衡に抵抗が加わり、そのぶん髄液Cl は低下する。たとえば細菌性髄膜炎など髄液

蛋白が著名に増加する例ではおのずと髄液Cl は減少する。すなわち、髄液Cl は髄液蛋白量を間

接的に見ているに過ぎない。かつて結核性髄膜炎で髄液Cl が特異的に低下するとの報告がなさ

れたことがあるが、のちにこれは結核性髄膜炎に生じる低クロール血症が原因であることが明ら

かにされた。したがって、血中Cl 値の把握と正確な髄液蛋白の測定がなされていれば、あえて

髄液Cl を測定する必要はないと思う。

2.臨床的意義のある化学的検査

24時間体制の検査室において、必須となる髄液化学検査を挙げるとすれば、蛋白と糖の2項

目である。さらに自動分析装置で容易に測定できることからLD とCK を重要参考項目として

付け加えたい。

1)蛋白

血清蛋白の0.2~0.6%が血液脳関門を通過し髄液に移行するとされており、腰椎穿刺

髄液の蛋白量は健康成人で15~45mg/dlでA/G 比も1.5~2.3と血清値とほぼ

同じである。髄液蛋白は各種中枢神経疾患で上昇し、一般的に50mg/dl以上であれば病

的増加と考えられる。特に細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎の増悪期や、ギラン・

バレー症候群などで高値を示す。これは、血液脳関門が破壊され、多くの蛋白が血中より髄液

に移行するためである。髄液蛋白の検出法としてはピロガロールレット法が代表的であり、分
光光度計や自動分析装置を用いて測定する。多発性硬化症や脳炎では中枢神経系で産生された


免疫グロブリンにより髄液蛋白が増加するため、A/G 比やIgG の検索が重要となる。

2)糖

通常、髄液糖は血糖値の60~80%に維持されており、その値はあくまでも血糖値に左右

される。髄液糖を評価する際は常に血糖値を参考にし対比する必要がある。髄液糖が低下する

代表的な疾患として細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、悪性腫瘍の髄膜浸潤などが

挙げられ、これは髄液腔で増加した病原微生物や好中球による嫌気性解糖作用、あるいは血液

脳関門の破壊による糖移送能障害が原因とされている。測定には電極法や酵素法を用いる。

3)LD

細菌性髄膜炎で髄液中のLD が優位に上昇し、さらに予後推定や治療効果の判定に役立つこ

とから、臨床的に意義のある髄液マーカーとされている。正常髄液やウイルス性髄膜炎のLD

アイソザイムではLD4、LD5はほとんど認められないが、細菌性髄膜炎では著しく増加した

好中球由来のLD4、LD5 が上昇し、そのためLD 値が高くなる。しかし、ウイルス性髄膜炎

であっても髄液中にリンパ球が著名に増加した例ではリンパ球由来のLD2、LD3 が上昇し、

髄液LD が上昇を示すことがあるので注意する。また、腫瘍性疾患や中枢神経組織の破壊が生

じた場合も髄液LD が増加する。髄液LD の基準値はJSCC 法で25U/l以下である。

4)CK

髄液中CK は血中CK と独立して変動し、髄液蛋白量の影響もほとんど受けない。CK には

骨格筋由来のCK-MM、心筋由来のCK-MB、脳由来のCK-BB があるが、髄液中で検出

されるのはほとんどがCK-BB である。髄液中のCK 基準値は6U/l以下で、髄液中のCK

が上昇する疾患には脳挫傷、髄膜脳炎、脳腫瘍、脳血管障害、多発性硬化症などが挙げられ、

その上昇は脳組織の荒廃に由来すると考えられる。髄膜炎症例において、重症例や脳炎に波及

する例では細菌性、ウイルス性を問わず髄液CK の上昇を示すとされている。

【 おわりに 】

日臨技より出版された「髄液検査法2002」に準拠し、標準化を目的とした髄液細胞算定法や化学

的検査法についてまとめてみました。中枢神経系疾患は一般的に重篤な疾患であり、早急な診断と治療

を必要とすることが少なくない。そのため髄液一般検査は24時間体制の検査室で迅速検査項目として

取り扱われるのが通常である。つまり、検査室内のすべての検査技師が髄液検査と接する可能性が高い

わけであり、避けるべきは技師間の知識レベルや技術レベルの差のために患者に不利益を与えてしまう

ことにほかならない。定期的に検査室内で知識や技術の教育を実施し、検査室全体の資質の向上に繋が

るものと思われる。

【 参考文献 】

1.(社)日本臨床衛生検査技師会髄液検査法編集ワーキンググループ

「髄液検査法2002」。(社)日本臨床衛生検査技師会;2002

2.髄液の採取と検査の進め方。Medical Technology 2003;31(5)

3.髄液の生化学検査。Medical Technology 2003;31(5)

2010年1月5日火曜日

セレコックス COX2阻害薬


UpToDate COX-2 inhibitors and gastroduodenal toxicity ― major clinical
trials より・・・

関節リウマチの患者688人を対象に、セレコキシブとナプロキセン、プラセボを投与した群を12週間観察した。セレコキシブとナプロキセンを投与した群
で、プラセボと比較して関節炎の症状が改善した。内視鏡的に観察される胃十二指腸潰瘍の発生率は、セレコキシブはプラセボと同等(約4%)であり、ナプ
ロキセンより(26%)極めて低かった。655人の関節リウマチ患者を対象にした別の研究でもセレコキシブとジクロフェナクの胃腸障害の程度は同様の結
果であった。
上の2つの研究は内視鏡的に観察される潰瘍を調べており、次の2つの研究は臨床上明らかな潰瘍に焦点を絞った。

CLASS研究は、8059人を対象とし、最初の6ヶ月間においてセレコキシブはイブプロフェンやジクロフェナクよりも症状を有する潰瘍や潰瘍による合
併症が顕著に少なかった。加えて、セレコキシブは非選択NSAIDsに比べて、肝障害、高血圧、浮腫も少なかった。

この研究のサブ解析が行われた。何人かの著者は次の6カ月間において、イブプロフェンやジクロフェナクで治療した群と比較して、セレコキシブで治療した
群では、潰瘍による合併症が多いと指摘した。その結果、観察の1年後では、3つの群において潰瘍合併症の発生には差がなかった。この情報はFDAにて利
用でき、胃腸障害のリスクに関しては、非選択的NSAIDsと同様であるとラベルづけされるような影響を受けるかもしれない。セレコキシブが胃腸障害を
減少することができなかった理由として次のものがあげられる、1)およそ20%の患者では低用量アスピリンを併用していた、2)セレコキシブ800mg
/日という高用量が投与されていた、3)比較的副作用の少ないNSAIDsとの比較がされていた。

2番目の研究(SUCCESS-1)では39ヶ国からの13274人の変形性関節症患者を対象とした。8800人がランダムにセレコキシブ(100-2
00mg1日2回12週間)、4394人が非選択NSAIDs(ジクロフェナク50mg または ナプロキセン500mg1日2回12週間)に割りつけ
られた。両薬剤とも変形性関節症の治療には同等の効果であった。NSAIDs群に比較してセレコキシブ群は2倍の対象数でありながら、臨床上明らかな潰
瘍は2群間で同じであった(それぞれ18人ずつ、オッズ比2)この研究で潰瘍合併症は9例あり(7例がNSAIDs群、2例がセレコキシブ群であった。
オッズ比7)。アスピリンを併用していない患者では合併症はより少なく(6例NSAIDs群、1例セレコキシブ群)、アスピリン併用している患者とは異
なっていた(それぞれ1例の合併症)。心血管のイベント発生の差を見出すほどの結果は得られなかった。しかし、セレコキシブ群では10例の心筋梗塞、半
分の対象数であるNSAIDs群で1例の心筋梗塞(オッズ比0.2)であった。