2009年6月17日水曜日

咬傷 くも <ゴケグモ、イトグモに注意 治療は抗原虫薬

クモ  クモ2万種のほとんど全てが有毒である。しかし,ほとんどの種では牙が短いか折れやすく,人間の皮膚を貫くことはない。米国では少なくとも60種が人間の刺咬傷に関係している(表308-3参照)。Pamphobeteus,Cupiennius,Phoneutria(ドクシボグモ)属は北米原産種ではないが,農産物や他の物資とともに,あるいは珍しいペットとしての商取引を通じて米国に持ち込まれたとみられる。 米国におけるクモ刺咬傷発生率は知られていないが,1996年には人口の87%を対象とする67の中毒情報センターに13,167件のクモ刺咬傷が報告された。米国での死亡例は通常は小児で,死者は年間3人以下と推計される。 毒物の化学と薬理学  詳細に研究されたクモ毒はごく少数である。最も重要なのは,その毒化合物が神経毒性を示すもの(ゴケグモ)と,壊死毒性を示すもの(イトグモと一部のタナグモ)である。ゴケグモ(Lactrodectus sp)毒に含まれる最も毒性の強い化合物は,神経筋伝達に影響を与えるペプチドのようである。イトグモ (Loxosceles sp)毒は,ゴケグモ毒よりも酵素活性は強いが,特徴的な一連の壊死病変を引き起こすような画分は,今のところイトグモ毒からは分離されていない。壊死病変の局所的血管炎の病態生理において,PMN(多形核白血球)の浸潤が主要な役割を果たしているようだが,その機構は完全には解明されていない。 症状,徴候,診断   ゴケグモ刺咬傷は通常,針で刺したような鋭い痛みを生じ,続いて受傷した四肢周辺の領域に鈍痛や,ときにしびれるような痛みが現れ,また腹部や肩,背部,胸部にけいれん痛や多少の筋硬直がみられる。関連する症状発現として,落ち着きのなさや不安,発汗,頭痛,めまい,眼瞼下垂,眼瞼浮腫,発疹とかゆみ,呼吸困難,悪心,嘔吐,唾液分泌,脱力,そして受傷部全体の皮膚温上昇がある。成人のより重篤な症例では通常,血圧や脳脊髄液圧が上昇する。   イトグモ刺咬傷では,刺された直後に灼熱感を生じるが,直後の痛みはほとんどあるいは全くなくとも30~60分のうちに局所に限局した痛みがいくらか生じることもある。受傷部には紅斑や斑状出血が現れ,かゆみを伴う。また全身性のかゆみを生じることもある。水疱が形成され,周囲にはしばしば不規則な斑状出血領域や,標的様,同心円状の病変がみられる;中央の水疱は膨大して血液で充満し,破裂して潰瘍を残し,一帯に黒い焼痂ができて最後にはかさぶたとなり,ときに筋肉を含むほどの,広範な組織欠損を生じる。痛みが激しくなり,受傷部全体にわたることがある。全身性の症状や徴候(例,悪心と嘔吐,倦怠感,悪寒,発汗,溶血,血小板減少,腎不全)が現れることがある。致死的な症例はまれである。米国では死亡は報告されていない。 受傷の原因となったクモを捕らえて同定するため,最善を尽くすべきである。ゴケグモは腹部下側にある赤またはオレンジ色で中央のくびれた模様により同定される。イトグモ(別名バイオリンスパイダー)の頭胸部には,バイオリンに似た模様がある。患者がクモ刺咬傷と断言できない場合には,別な診断を考慮すべきである。 ノミ,ナンキンムシ,マダニ,ダニ,サシバエによる刺咬傷(後述参照)が,しばしばクモ刺咬傷とまちがわれる。一部の節足動物による刺咬傷は水疱性の病変を生じ,それが破裂して潰瘍を作るため,イトグモや他のクモによる刺咬傷とよく似ている。イトグモによる壊死性または壊疽性のクモ刺咬傷は,特にこの種がみられない地域では,おそらくイトグモ属以外のクモか,さらに可能性の高いものとしては他の節足動物――サシガメ科の半翅類甲虫や,カリフォルニアおよび近隣の州ではパハロエヨカズキダニ(Ornithodoros coriaceus)が原因と考えられる。イトグモ刺咬傷とされる症例の中には,中毒性表皮壊死症や,慢性遊走性紅斑,結節性紅斑,スポロトリクム症,慢性単純ヘルペス,結節性動脈周囲炎などの誤診がある。 治療   角氷をゴケグモ刺咬傷部位に当て,痛みを和らげる。16歳未満または60歳以上の患者や,高血圧性心疾患のある患者,毒の注入による重篤な症状や徴候がみられる患者は入院の必要があり,対症療法が無効な場合には適切な皮膚試験の実施後,1バイアル(6000U)の抗毒素(Latrodectus mactans抗血清)を生理食塩水10~50mLに溶かして静注(通常3~15分以上)する。小児は呼吸補助が必要なことがある。受傷後12時間は,バイタルサインを頻回に確認すべきである。高齢者には急性高血圧の治療が必要なこともある。 筋肉痛や攣縮には,10%グルコン酸カルシウム10mLをゆっくりと静注投与する。4時間間隔で数回の投薬が必要なこともある。成人には弛緩薬,特にメトカルバモールの静注がときに有効である。ジアゼパム10mgの1日3回経口服用は,さまざまな程度の効果を示す。麻薬と熱い風呂で苦痛が和らぐことがある。   イトグモ刺咬傷には,氷(皮膚の凍傷を防ぐため包んだもの)を一時的に傷に当て,痛みを軽減する。刺咬傷が四肢にある場合は,傷が治癒するまで患肢を挙上する。(刺咬傷が治癒するまで)冷湿布を継続使用することも,痛みの軽減に有効である。 炎症が鎮静するまでダプソン(ジアフェニルスルホン)100mg/日を経口投与する。ダブソンは無顆粒球症および溶血性貧血を起こすことがあり,これはG6PDの欠乏した患者では悪化する場合があるので,治療開始前にG6PD試験とCBCの実施が必要である;血球算定は継続してモニタリングすべきである。高圧酸素治療の使用は,ごく少数の患者でしか臨床的改善を生じていない。   潰瘍部位は毎日洗浄し,必要に応じて壊死組織切除を行う。ポリミキシン-バシトラシン-ネオマイシン軟膏を就寝前に用いてもよい。ほとんどの刺咬傷で必要なのは局所治療のみである。外科的切除が必要な場合は,壊死領域の完全な分画を待って実施する。   全身症状には対症療法を行う。コルチコステロイドの全身投与による効果の一貫性または信頼性は示されていない。 表308-3 米国における危険なクモ→ 米国における危険なクモ  学名 一般名 Latrodectus mactansおよび近縁種 クロゴケグモを含むゴケグモ類 Loxosceles reclusaおよび近縁種 ドクイトグモを含むイトグモ類 Tegenaria agrestis タナグモの一種(アグレッシブ・ハウススパイダー;ロッキー山脈以西,特に米国北西部で認められる) Phidippus sp ハエトリグモ類 SelenocosmiaおよびPamphobeteus sp タランチュラ(トオボエオオツチグモ類,パンホベテウス類) BothriocyrtumおよびUmmidia sp トタテグモ類 Cupiennius sp いわゆるバナナスパイダー Lycosa sp コモリグモ類 Heteropoda sp アシダカグモ類 Misumenoides sp カニグモ類 LiocranoidesおよびChiracanthium コマチグモ類 Neoscona overte-brata,Araneus sp オニグモ類など円網を張るクモ Argiope aurantia キマダラコガネグモ Drassodes sp ハシリグモまたはグナフォシドスパイダー Peucetia viridans グリーンリンクススパイダー Steatoda grossa ヒメグモまたはニセクロゴケグモ *ダブソン 原虫に対する薬。日本での商品名はレクチゾールでニューモシスチス肺炎トキソプラズマ脳症の治療で使うことがある(保険適応外)。ニューモシスチス肺炎予防には、25-100mg/日、治療には100mg/日とトリメトプリム5mg/kgを8時間毎に21日間。  【副作用】食欲低下、吐き気嘔吐頭痛不眠発熱、目のかすみ、アフリカ系でみられるG-6-PD欠乏症患者には、溶血を起こすので禁忌である。 090616 http://merckmanual.banyu.co.jp/cgi-bin/disphtml.cgi?url=23/s308.html _________________________________________ Wiki  セアカゴケグモ 日本での発見 [編集] 1995年11月に大阪府高石市で発見されたのを始め、兵庫県神戸市西区などの港湾都市で相次いで発見された。2005年8月に群馬県高崎市の民家で5匹見つかった。関東の内陸部で確認されたのは初めてである。最近では2008年4月下旬に岡山県倉敷市で7匹発見され、5月には愛知県愛西市国営木曽三川公園で約600匹と卵が、6月には大阪市福島区淀川河川公園で約30匹が発見された。8月には鹿児島市の新日本石油基地で、ハイイロゴケグモと合わせて100匹以上が発見された。 近年の温暖化の中で、日本でも越冬して発生を繰り返しているとの見方が有力で、外来種として位置づけられている。なお、最近までクモ類では外来種は珍しく、これ以前にはクロガケジグモがあるのみであった。ただ、近年外来種は増加傾向にあり、ハイイロゴケグモ・ジュウサンボシゴケグモマダラヒメグモなどが確認されている。 特徴 [編集] 形態 [編集] 体長はメスが1cm前後、丸くつやつやの黒い体で、胸腹部の背面には赤のひし形が2つ縦に並んだようなマーク、腹面には赤の砂時計状のマークがあるので見間違えることは少ないだろう。赤斑の形は雌雄で多少違いがあり、時に地色の黒も淡いものもなどがある。オスは3~5mm程度とメスよりずっと小型で体も細く、褐色がかった地色に淡色の斑紋があるがメスのような目立つ赤斑はもたない。しかし幼体のうちは雌雄とも淡褐色の地に不明瞭な縞模様をもつのみで、成体のような雌雄の違い(性的二型)は見られない。なお5月頃から庭や家壁などに見られるようになる真っ赤なタカラダニ類は、一見微小なクモにも見えるため、時に本種の子供ではないかと勘違いされることもあるが、前述のとおりセアカゴケグモの幼体は淡褐色で全く異なり、真っ赤なタカラダニ類は特に害のない動物である。 巣 [編集] セアカゴケグモの造るは不規則網で、複雑に張られた三次元構造を持つ。その上方は糸に粘液がついていない巣域と呼ばれる住居で、卵嚢などもこの部分にぶら下げられる。一方、網の下方は捕獲域と呼ばれ、糸には捕獲用の粘液がついている。これに虫が触れて粘着すると、セアカゴケグモは粘糸を投げて獲物を絡め捕って巣域まで引き上げて食べる。網はベンチの下や側溝の蓋の裏側、ガードレールの支柱付近などといった、比較的地面に近く直射日光が当たらない場所に造られることが多い。 毒 [編集] 毒は獲物を咬んだときに、獲物の体に注入されるもので、神経毒の「α-ラトロトキシン」である。しかし、性格はおとなしく、手で直接触ったりしなければ咬まれることはない。また、その毒性も死に至る例は非常に少ない。オーストラリアでは古くから代表的な毒グモとして知られており抗血清も存在する。日本でもセアカゴケグモの発生した地域の医療機関で抗血清を準備しているところもある。咬まれた部位は、ちくっとした痛み、あるいは激しい痛みを感じる。その後、咬まれた場所が腫れ、全身症状(痛み、発汗、発熱など)が現れる。手当てが遅れると毒素の効果により皮膚が腐っていくことがあるため、咬まれたら、特に子供は、医療機関での早急な診察が必要である。可能であれば、この毒グモであると判断するために、個体を小瓶などに捕獲して医療機関に持参すると良いであろう。 ゴケグモ類 [編集] クロゴケグモ(メス) ゴケグモ類は、ゴケグモ属 (Latrodectus) というグループに分類され、数十種が知られている。熱帯地方を中心に世界中に分布する仲間である。「ゴケグモ」の名前の由来に関して、毒性が強いため、噛まれた時の死亡率が高く、奥さんが後家になる、という俗説が知られている。実際には、ゴケグモ類の英名 "widow spider" そのままの和訳で、ゴケグモ類はオスの体がメスに比べて非常に小さく、交尾後にオスがメスに共食いされることに由来する。ただし、共食いの頻度などは種類や条件により異なる。 最も有名なゴケグモ類は、クロゴケグモ (Latrodectus mactans、Black widow spider) で、北アメリカをはじめ、世界中に広く生息する毒グモ。こちらの方が死亡例なども多い。日本では2000年以降になって米軍岩国基地内での発生が確認されている。セアカゴケグモとはほぼ同じ大きさ。セアカゴケグモをクロゴケグモの亜種に分類する場合もあり、その場合には、セアカゴケグモによる死亡例が、世界中のクロゴケグモによる死亡例と統計上合計されている場合があり注意が必要である。アメリカでは『 Black Widow(ブラック・ウィドウ)』という名で知られている。また、Brown Recluse(ブラウン・レクルース。日本名ドクイトグモ)という毒グモも同時に注意しなければならない種類である。 ジュウサンボシゴケグモ(メス)