順天堂大学医学部循環器内科 加藤洋一 代田浩之
はじめに
バージャー病では、喫煙以外の危険因子は少なく、予後は閉塞性動脈硬化症 (ASO) に比べ良いとされるが、早期から適切な治療を行わないと潰瘍壊疽を生じる症例が多い。内科的治療は、一般療法、運動療法、薬物療法に大別される。
一般療法
喫煙はバージャー病の最重要危険因子である。喫煙なくしてはいかなる薬物療法や血管形成術を行っても十分な治療効果を期待することは難しく、徹底した禁煙指導 (受動喫煙を含む) が望まれる。軽症例では禁煙を守るだけで症状が軽快することもある。喫煙以外で改善可能な危険因子としては、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧などがあるが、禁煙かん始まるこれらの危険因子に対する治療を十分に行うことが重要であり、治療の基本となる。Fontaine 1度の冷感、しびれ感、に対しては下肢の保温、外傷からの保護といった生活指導が推奨される。
運動療法
運動療法は、間歇性破行に対する第一選択の治療法として推奨されている。歩行時には、筋組織での酸素需要が安静時の数十倍にも増加する。間歇性破行は、下肢動脈の閉塞性動脈硬化症病変によって血液の供給能力が低下するために、歩行時に下肢の酸素需要増加に対応できず、虚血による疼痛を生じて歩行が継続できなくなることによって引き起こされる。運動療法を行うことにより、次第に痛みの出現する距離が延長して歩行できる距離が長くなるという効果が現れる。ただし、運動療法による歩行の能力改善のメカニズムは完全に解明されているわけではない。筋肉内の代謝能力の上昇、およびさらに中枢側の非虚血筋肉を使用する歩行の変化などがメカニズムとして推測されているが、単なる側副血行路の発達によるものではないとされる!)。なお、運動療法は単独でも有効であるが、薬物療法の併用によりさらに効果が向上することが示されているので、患者の病態に応じて適宜薬物を併用することも有用である。
薬物療法
薬物治療には抗血小板剤、血管拡張薬、血管拡張薬、血管収縮抑制剤、抗凝固剤などが用いられる。薬物療法単独では、バイパス手術や血管内治療で得られる動脈自体の閉塞性病変を直接改善する効果はないが、血栓形成の抑制、微小循環改善、側副血行路の発達、血管攣縮の軽減や抗動脈硬化作用などから臨床症状を改善するとされ、多種類の薬剤が使用されている。投与経路としては経口剤と注射剤があるか、大多数の患者は外来で治療を受けており、投与が簡単な経口剤の使用度が高い。比較的軽症例では、虚血に起因する冷感、間歇性破行などの症状の改善が治療の第一目的であり、特にいくつかの薬剤で破行距離を伸ばすとの報告がみられる。さらに抗血小板薬は、バイパス手術や血管内治療後の再狭窄予防目的としてもしようされ、心血管事故の一次予防としての役割もある。
以下、各薬剤の特徴を簡単に示す。
1. シロスタゾール(PDE阻害薬)
シロスタゾールは、CAMP 代謝酵素であるホスホジエテラーゼ(PDE)のtypelllを特異的に阻害することによりcAMPの分解を抑制し、血小板凝集を抑制する薬剤である。あわせて強い血管拡張作用も持っており、その作用は可逆的である。シロスタゾールハ米国ノ臨床試験において、間歇性破行患者の歩行距離延長に有効であることが確認されており、米国FDAの許可も得ている(2)。
またmeta-analysisでも1 2か月で破行出現距離を50%改善することや脂質改善作用が報告されている(3)。
2. プロスタグランジン製剤
本剤は1973年Carlsonらが初めて下肢虚血性潰瘍に投与して以来広くASOに臨床応用されている。主要な薬理作用は、末梢血管拡張作用、血流増加作用、血小板凝集抑制作用、血小板粘着抑制作用、赤血球変形能改善作用、細胞保護作用などである。現在使用可能なプロスタグランジン製剤は、注射薬のアルプロスタジル、リポPGEIと経口薬のリマプラスト、ベラプロストの4種類である。注射薬の特徴を簡単に述べると、アルプロスタジルは点滴投与可能なPGEI誘導体であり、末梢血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を持つ。重症の間歇性破行患者の歩行距離を延長することが報告されており(4)、潰瘍壊死などの重症虚血肢に用いられることも多い。PGEI注射剤には、通常のPGEIと、PGEIを脂肪粒子に封入して局所移行性を高めたりするリポ化PGEIとがある。リポ化PGEIは生体内で不活化されにくいため、通常のPGEIより少量で効果が得られ、副作用も少ないしいう利点がある(5)。一方、通常のPGEIは、点滴静注が必要なため入院治療時に用いられることが多く、疼痛の強い難治性症例などには動脈内投与を行うことも可能である。
3. セロトニン受容体桔抗剤 (塩酸サルポグレラート)
本剤は血小板上のセロトニン5-HT2受容体桔抗薬で、セロトニンによる血小板凝集作用を抑制するほか、赤血球変形能改善作用も認められる。また、血管平滑筋細胞の5-HGI2受容体に桔抗することにより、血管収縮抑制作用も示すとされる。
4. エイコサペンタエン酸 (EPA) 製剤
EPAは魚油に含まれる長鎖のω-3 ここ注意-参考資料をご覧頂きます。)多値不飽和脂肪酸(PUFA)のひとつである。血中EPA濃度の高さエスキモー人に虚血性心疾患が少ないことから、その抗動脈硬化作用が注目され製造された。EPAは、アラキドン酸代謝系に作用しトロンポキサンA2産生を抑制することにより血小板凝集抑制作用を示す。また、血清脂肪を低下させ、動脈の伸展性を保つ作用もあるとされる。EPAが脳梗塞の発症頻度を抑えるという報告がある(6)が、間歇性破行に対して歩行距離を延長するというエビデンスはない。
5. チクロピジン
アデニールシクラーゼを活性化してcAMPを増加させることにより、強い血小板凝集抑制作用を示す。GPllb/lllaとfbrnの桔合阻害も報告されている。血管拡張作用などはない。一次、二次凝集とも不可逆的に抑制し、血小板の寿命の期間内は効果が持続するため、抗血小板作用は7-10日間持続する。間歇性破行の改善作用はないが、バイパス術後や血管内治療後の血栓症予防目的に使用され、心臓や脳血管疾患による死亡率低下が報告されている (7)。
血管内治療
従来のバルーンによる経皮的血管形成術(Percutaneoua transluminal angioplasty:PTA)に、アテレクトミー、ステントを組み合わせた治療を行うことにより、末梢血管病変に対する血管内治療の成績は著しく向上した。血管内治療は、外科的バイパス術より侵襲が少なく、薬物治療より効果の発現が確実で早いという利点がある。しかし、バージャー病における安静時疼痛や潰瘍壊死は手指や足趾に限局した虚血のことがほとんどであり、好発部位は下腿動脈より末梢側で足底動脈やPedal archが造影されず、末梢run offが不良のことが多いなどの理由により血管内治療の良い適応ではないことが多い。
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