2009年9月11日金曜日
神経内科 Parkinson 症候群
パーキンソン病はどんな病気?
どのくらいの患者さんがいるのでしょうか
10万人あたり50 - 100人(有病率)の患者さんがおられます。
発病はほとんどが初老期(50歳台後半)で、一部が若年発症(40歳以前)で、一般的には(若年性の一部以外)遺伝しない疾患です。
おもな症状
動作緩慢(無動)、手足のふるえ(安静時振戦)、筋肉のこわばり(筋固縮)が主な症状で次のような症状もみられます。
仮面様顔貌、発語障害(小声、どもる)、書字困難、手の細かい運動の障害
精神症状(反応が遅い、うつ状態)
歩行障害(こきざみ歩行、前かがみ、突進歩行、すくみ足、腕振りの消失)
姿勢反射障害(姿勢バランスが崩れた時によろめいたり、こけたりする)
自律神経症状(便秘、たちくらみ:起立性低血圧)。
病気の経過
治療法の進歩により寿命は一般平均と変わらなくなっています。症状の経過は人それぞれですが、発病後10年で少し介助が必要になる人が半分くらいのごくゆっくりした経過です。
ヤールの5段階病期がよく使われます。
1期:手足の片側のみの症状の時期 2期:両側に症状があるが、ふつうの生活可。
3期:姿勢反射障害が出はじめる。仕事可。 4期:介助歩行がいる。
5期:車椅子が必要。
※ヤール3期以上では医療費の公費負担制度がありますので、管轄の保健所へ申請してください。(症状の程度や年収により自己負担率が変ります)
病因
中脳の黒質神経細胞が徐々に減少する(変性)ため黒質で産生される神経伝達物質のドーパミンが減少し、運動の制御機構である黒質線条体系が働かなくなりパーキンソン症状がおこります。黒質変性の原因はまだわかっていません。
先頭へ
パーキンソン病の診断はどのようにされるのでしょうか?
まず、パーキンソン症状(パーキンソニズム)をおこす他の疾患(パーキンソン症候群)を除外します。
パーキンソン症候群のなかには次のようなものがあります。
薬物性パーキンソニズム:胃腸薬、精神安定剤、脳循環改善薬などでおこる。
脳梗塞による脳血管性パーキンソニズム
変性症:線条体黒質変性症、シャイドレーガー症候群、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、痴呆を伴うレビー小体病などがあります。
パーキンソン病は特別の画像(CT,MRI)や検査で診断できません。臨床症状とパーキンソン症候群の除外により診断します。脳梗塞や他の変性症の診断にはMRIは、とても有効な診断法となります。
先頭へ
パーキンソン病の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか?
ご自分の処方内容を知っておいて下さい。( )内は商品名です。
薬物療法はその作用機序によりいくつかのグループに分けられます。
ドーパミン補充療法:レボドパ(マドパー、ネオドパストン、メネシット、ECドパールなど)
抗コリン薬(アーテン、アキネトン、トリモール)
ドーパミン放出促進薬(シンメトレル)
ドパミン受容体刺激薬(麦角系:パーロデル、ペルマックス、カバサール、非麦角系:ドミン、ビ・シフロール、レキップ):パーキンソン症状の改善のほか神経保護作用があるとされ、症状の進行が抑えられることが期待されています。
ドパミン分解抑制薬(エフピー錠、エフピーED錠):MAO B阻害薬とも呼びます。レボドパと併用します。症状の進行を抑えることも期待されています。
COMT阻害薬(コムタン):レボドパを分解する酵素であるCOMTを阻害しレボドパの効果を持続させる薬です。レボドパと併用します。レボドパの作用時間が短くなる現象(ウエアリングオフ現象)や症状の日内変動を改善することが期待できます。
ノルアドレナリン補充療法:すくみ足の改善(ドプス)
レキップとコムタンは2007年保険適応になった新薬です。
パーキンソン病は脳内ドーパミンが不足する病気ですので、ドーパミンの補充療法が基本的治療になりますが、必ずしも早期から十分量補えばよいと言うものではありません。
30年にわたるレボドパ治療の反省から(下記の長期治療上の問題点をご覧下さい)、現在の薬物療法の原則は次のようなものです。
初期(ヤール1・2期)にはできるだけ、レボドパ以外の薬(抗コリン薬、シンメトレル、ドパミン受容体刺激薬)をつかう。 症状が軽度なら投薬しないこともあります。
初期から神経保護作用のある薬(ドーパミン受容体刺激薬)を単独使用、あるいは他剤と併用する。
レボドパはヤール3期以降につかうのが望ましい。
多剤併用療法を行ない、レボドパ量は最少量に維持する。
ただし、レボドパの使用開始時期には患者さんの社会活動量の多少、年令なども考慮されます。70歳以上ではレボドパでの治療開始が考慮されます。
薬の副作用
消化器症状(食欲不振、胃痛、胸やけ、はきけ)
精神症状(幻覚、妄想)
自律神経症状(便秘、尿閉、口渇、起立性低血圧)
不随意運動(ジスキネジア)
心臓弁膜症:麦角系ドパミン受容体刺激薬のカバサールやペルマックスでみられることがあります。
睡眠発作:非麦角系ドパミン受容体刺激薬
放置して良い程度のものとそうでないものがあります。副作用がでたら主治医に相談して下さい。
薬物による長期治療上の問題点もあります。
症状の日内変動(ウエアリングオフ現象、オンオフ現象)や治療効果減退
対処法:
長時間作用のドパミン受容体刺激薬、MAOB阻害剤、COMT阻害薬などの併用。
レボドパの分割投与(1-2時間おきに服薬、1日総量は増やさない)
薬物治療で効果が得られないときは定位脳手術や電気刺激療法(下記参照)などの手術が行われるようになってきました。
手術にもいくつかの方法があります。
定位脳手術(視床手術:振戦に有効、淡蒼球手術:ヤール3・4期も可)
近年淡蒼球手術が多くされてきましたが反省期にあります。
電気刺激療法(視床下核に刺激電極を植え込みます)
最も期待されて普及されつつあります。
脳移植(頚部交感神経節や胎児黒質の脳内移植)
ほとんど行われていません。
治療への将来的な展望
近年、遺伝子治療や神経幹細胞による治療の研究が飛躍的に進歩しています。近い将来これらの治療法が実現する可能性は大きく、大いに期待されていますれています。
遺伝子治療:無毒性ウイルスを利用してドパミン遺伝子をパーキンソン病患者さんの脳に導入(とり込ませる)する方法 。
神経幹細胞移植:神経細胞発生の源になる細胞(神経幹細胞)の中から分化誘導したドパミン作動性神経細胞を脳に移植する方法。
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